2012年4月28日土曜日

貧血 - Wikipedia


貧血(ひんけつ)とは血液が薄くなった状態である。医学的には、血液(末梢血)中のヘモグロビン(Hb)濃度、赤血球数、赤血球容積率(Ht)が減少し基準値未満になった状態として定義されるが[1]、一般にはヘモグロビン濃度が基準値を下回った場合に貧血とされる[2]

血液が薄くなり、赤血球の主要な構成物質であり酸素運搬を担うヘモグロビンが血液体積あたりで減少することで、血液の酸素運搬能力が低下し、多臓器・組織が低酸素状態になることで倦怠感や蒼白その他の諸症状が現れる[1][2]

基準値は研究機関・検査施設によって若干異なるが、概ね男性でヘモグロビン濃度13.0 g/dl、女性で12.0(あるいは11.5) g/dl程度とされる[1][2]

なお、貧血はヘモグロビンあるいはヘマトクリットが減少した状態(症候、病態)を示す言葉であって、単に「貧血」という名前の病気があるのではなく、病名(疾患名、診断名)は原因に従って、鉄欠乏性貧血とか赤芽球癆などと言った病名になる[3][4]

また、世間では急に立ち上がったり、立ち続けることで血圧が低下しめまい・立ちくらみが起きる一過性の起立性低血圧(脳貧血)やそれに加え全身の倦怠感なども起きる慢性の低血圧症を貧血と呼ぶこともあるが、低血圧によるものは医学的には貧血とはまったく異なるものである。

赤血球は血流に乗って全身を巡り、赤血球内部に充満しているヘモグロビンを使って酸素を全身に運ぶ働きをしており、赤血球数が減少したり赤血球が小さくなることでヘモグロビンが足りなくなると十分な酸素を運ぶには血流量自体を増やしたり、呼吸量を増やすことで代償しなくてはならない。すなわち、動悸・息切れがみられる。特に、代償の限界を超える運動時にこれらの症状が強くなる。

また、代償が追いつかないと、体の各組織が低酸素状態になり、倦怠感などの諸症状が現れる。また、血色素であるヘモグロビンが減少するために体の各部が蒼白になる。


目のアレルギーの水の痛み

しかし、貧血が徐々に進行した場合には、体が低酸素状態に慣らされるために、相当に強い貧血になるまで特に自覚症状が無いこともある。

[編集] 原因

貧血の原因は大別して赤血球産生の低下と、破壊・喪失の亢進がある(両方が同時に起きることもありえる)。

赤血球産生の低下は

  1. 無効造血・・・・造血細胞は赤血球を作ろうと努力はするが何らかの原因でうまく行かず、正常な赤血球を十分に作れない。
  2. 造血細胞の減少・・造血細胞の数が減少し赤血球産出能力が低下する。
  3. その他・・・・造血因子(エリスロポエチンなど)の減少や低栄養で造血細胞の意欲が低下する。

赤血球の喪失には

  1. 出血・・・出血では赤血球と血漿(水分)を同時に失うが血漿(水分)量は短時間で回復するが赤血球の回復には時間がかかるので血液が薄くなる。
  2. 溶血・・・何らかの原因で赤血球が破壊される。

などに大別される[5]

[編集] 赤血球産出の低下

(1)無効造血

  1. ヘモグロビン合成障害 
    1. 鉄欠乏性貧血(ヘム合成の障害) 赤血球の材料である鉄が不足する。
    2. 鉄芽球性貧血(ヘム合成の障害)
    3. サラセミア(グロビン合成の障害) 異常な赤血球が作られてしまい、それはすぐに壊されるので溶血性貧血でもある。
  2. DNA合成障害
    1. B12欠乏 巨赤芽球性貧血・・悪性貧血や胃の切除、腸の吸収異常、極端な菜食主義でB12が不足する・
    2. 葉酸欠乏 巨赤芽球性貧血・・なんらかの原因で葉酸が不足する。
  3. 骨髄異形成症候群(MDS)・・造血細胞自体の異常で正常な赤血球が作れなくなる

(2)造血細胞の減少

  1. 再生不良性貧血
  2. 赤芽球癆
  3. 骨髄癆・・骨髄で異常細胞が増殖したり、骨髄が何かに置き換わってしまって造血細胞が骨髄から追い出されてしまう。白血病、肉芽腫性疾患、骨髄線維症、転移性腫瘍など
  4. 薬剤、放射線、ウイルスなどが造血細胞を傷害する

(3)その他

  1. 造血因子エリスロポエチンの減少  腎障害-腎性貧血
  2. 低栄養

(注、この小節の出典は[5][6])


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[編集] 赤血球の喪失

(1)出血 出血では血液成分の赤血球と血漿(水分)を同時に失うが、血漿(水分)量は短時間で回復するが赤血球の回復には時間がかかるので血液が薄くなる。出血が長期に渡ると鉄が欠乏し鉄欠乏性貧血と重なる。

(2)溶血性貧血 赤血球が壊される、あるいはもろく壊れてしまう。

  1. 赤血球膜異常 遺伝性球状赤血球症、肝疾患、尿毒症
  2. 赤血球酵素異常 G6PD欠乏症、ピルビン酸キナーゼ欠乏症
  3. 自己免疫性溶血性貧血 免疫系が自分の赤血球を攻撃してしまう。
  4. 物理的破壊 行軍ヘモグロビン尿症(スポーツ貧血)足を強く多く踏みつけることで、足裏の毛細血管内で大量に赤血球を押しつぶしてしまう。
  5. 発作性夜間ヘモグロビン尿症

(注、この小節の出典は[5][6])

[編集] 形態

形態による貧血の分類。 赤血球の減少は、赤血球のサイズ・ヘモグロビン濃度という観点から分類される。

  • 赤血球のサイズ
    • 大球性 - 赤血球が通常よりも大きい。赤血球の分化に異常があることを示唆する
    • 正球性 - 通常のサイズ
    • 小球性 - 通常よりも小さい。赤血球を作るための材料が不足していることを示唆する
  • ヘモグロビン濃度
    • 正色素性 - 通常の濃度で含まれている
    • 低色素性 - ヘモグロビン量が少ない。ヘモグロビンの産生に障害のあることを示唆する

これらを組み合わせて、例えば「小球性低色素性貧血」などと表現する。これは、状態を表現しただけのもので原因まで含めた診断名ではない。


中指の痛み
  • 赤血球数
  • ヘモグロビン濃度
  • 鉄濃度
  • フェリチン濃度
小球性低色素性貧血で上昇していれば二次性貧血を疑い、低下していれば鉄欠乏性貧血を疑う。
網赤血球は若い赤血球であり、骨髄での造血機能が衰えると減少する。絶対値で計算するのが重要であり、およそ5~10万 /μlになるようなら正常であり、これ以下なら造血機能の障害を疑う。若い赤血球である網赤血球が多いにも関わらず(つまり骨髄では赤血球を盛んに作っているにも関わらず)貧血であるなら、出血や溶血を疑う。
平均赤血球血色素量 判定
28~ 正色素性貧血
~28 低色素性貧血
平均赤血球血色素濃度(%) 判定
31~ 正色素性貧血
~31 低色素性貧血
  1. 原因の除去。貧血を招いている基礎疾患の治療が基本である。特に出血が原因であるならば急いで出血を止める必要がある。鉄欠乏性貧血ならば鉄分の摂取、行軍ヘモグロビン尿症ならば運動量の削減や靴の改善など治療の方法はそれぞれの原因次第である。ただし治療が困難な血液疾患は原因疾患の治療と平行して、対症療法として輸血を行う。
  2. 除去可能な原因の場合でも、貧血の程度が重い場合には輸血で赤血球を補給する必要がある。
  3. 食事療法、赤血球の増産に必要な栄養を十分に補給する。[7]

通常、貧血は健康ではない状態であるが、これを他の症状の治療に利用することがある。ウイルス性肝炎を含む肝炎では、肝臓の細胞に鉄分が蓄積される。これはアポトーシスを引き起こすことで、傷付いた肝細胞を排除しようとする免疫機能の働きで、この肝臓細胞内の鉄分が活性酸素を細胞内に呼び込んでアポトーシスが起こされる訳だが、肝炎ではこれらアポトーシスが過剰に機能し、放って置けば肝硬変を引き起こす。これを食い止めるために、食事制限などによって人為的に鉄分欠乏状態を起こさせる。


しかし既に鉄分が肝臓細胞に過剰に蓄積されている場合には、早急に鉄分を消費させる必要が出てくる。この際、瀉血によって人為的に貧血状態を引き起こさせ、ヘモグロビン合成に鉄分を消費させるという除鉄療法と呼ばれる治療法が広まっており、特にインターフェロンの効き難いC型肝炎では、同治療法の効果が期待されている。なお単に瀉血すればいいというものではなく、血液中のGTP値を監視するなどといった、他の療法との併用が必要とされる。

  • ウマ類にのみ発症する疾病として、高熱と貧血症状を起こして衰弱死する馬伝染性貧血という病気がある。ただし、これはウイルスの吸血昆虫を媒介とした感染により起きる伝染性の疾病であり、症状は本項の貧血と類似するものがあるが、発病の成立については大きく異なる。

[編集] 出典

  1. ^ a b c 浅野『三輪血液病学』p952
  2. ^ a b c 小川『内科学書』 p64
  3. ^ 杉本『内科学』pp1602
  4. ^ 中尾『血液診療エキスパート・貧血』p2
  5. ^ a b c 小川『内科学書』 p64-66
  6. ^ a b 浅野『三輪血液病学』p955
  7. ^ 浅野『三輪血液病学』p958-959

[編集] 参考文献

書籍


  • 浅野茂隆、池田康夫、内山卓 監修 『三輪血液病学』文光堂、2006年、ISBN 4-8306-1419-6
  • 小川聡 総編集 『内科学書』Vol.6 改訂第7版、中山書店、2009年、ISBN 978-4-521-73173-5
  • 杉本恒明、矢崎義雄 総編集 『内科学』第9版、朝倉書店、2007年、ISBN 978-4-254-32230-9
  • 中尾眞二、伊藤悦朗、通山薫 編集『血液診療エキスパート 貧血』中外医学社、2010年、ISBN 978-4-498-12558-2

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